2016年04月01日
広告料名目の金員授受についての去年の判例です。
※本事例は一般財団法人 不動産適正取引推進機構 機関誌RETIOに掲載された判例からの抜粋です。
◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆
○賃借人より礼金として受領する金員を媒介業者が広告料名目で収受する旨の媒介業者と賃貸人間の合意は宅建業法に違反し無効とされた事例
媒介業者と賃貸人間で、媒介業者がテナントから受領した預り金等の授受についてトラブルが発生し、媒介業者は営業妨害の不法行為に基づく損害賠償請求(本訴)を、賃貸人は預り金等の返還を求めた(反訴)事案において、テナントより礼金として受領する金員を媒介業者が広告料名目で収受する旨の媒介業者と賃貸人間の合意は、宅建業法に違反し無効であるとし、裁判所が認定した媒介業者から建物所有者への未交付分に限定して賃貸人の請求は認容されたが、双方のその余の請求は棄却された事例(東京地裁 平成25年6月26日判決 一部認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成18年、賃貸人(被告)は、媒介業者(原告)に、所有建物(以下「本件建物」という。)の賃貸借契約の媒介を依頼した。
媒介業者は本件建物において、同年11月から平成22年2月にかけて本件契約1ないし4の、4件の賃貸借契約の媒介を行った。
平成22年3月、媒介業者は、金銭の精算等について疑問を持った賃貸人が媒介業者の事務所に押しかけ暴言を吐き、恫喝したとして、賃貸人に対し営業妨害等の不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めて、本訴を提訴した。これに対し、賃貸人は媒介業者に対し、預り金等返還請求として240万円余(うち礼金111万円余)の支払を求め、反訴として提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、賃貸人の請求を一部認容した。
(1) 賃貸人の営業妨害について
媒介業者と賃貸人とのやり取りで、賃貸人らが、やや激しい言葉で媒介業者に迫ったことはあるとしても、社会通念上許される範囲を超えて賃貸人らが暴言を吐き、媒介業者を恫喝したとまで認めることはできない。
(2) 本件礼金取得合意の存否について
媒介業者は、本件契約1に先立ち、賃貸人に対し、近時の賃貸物件の供給状況では、貸主が広告料名目で元付業者に対し金員を支払うのが一般的であり、本件建物の賃貸を仲介するに際しても、賃貸人に広告料を支払ってほしい旨求めたところ、賃貸人が、自分が出えんをして広告料を負担するということに難色を示したので、媒介業者において、テナントから礼金名目で金銭(通常は賃料の2か月分)を徴収し、これを広告料に充てることを提案し、賃貸人の了承を得た。
賃貸人は、これを否定する旨の主張をするが、4件の各契約書には、礼金の規定が明確に表示されており、投資物件としての運用を目的とした賃貸人が礼金が未払であることについて問題としなかったとは考え難いのであり、賃貸人の主張等は、採用することができない。
(3) 本件礼金取得合意の効力等について
礼金取得合意は、賃借人から礼金との名目の下に賃料の1か月又は2か月分相当額の金員を出えんさせることを前提として、これを媒介業者において広告料の名目により取得することを認めるものであるが、このような合意は、宅建業法の定めに違反し、無効であるというよりほかはない。
本件以外でも、広告料名目の金銭の収受が行われる実態が認められるとしても、このような実態に基づく運用が強行規定である宅建業法の規定を空文化する効力を持つような慣習法として確立しているとは言い難く、上記媒介業者の主張によっても、前記判断を左右するに足りない。
賃貸人は、礼金名目の金員について、賃貸人が取得すべき金員を媒介業者が預かり又は留保したとして、その引渡しを求めている。しかし、この礼金は、強行規定を潜脱する目的で、媒介業者が広告料名目の金員を取得するために定めたものであるから、各賃借人と賃貸人間の礼金支払合意も、礼金取得合意と同様に、宅建業法の規定に反し、無効である。
賃貸人は、各賃借人から支払われた礼金名目の金員を取得する正当な権限を有しないから、これを自らに引き渡すべき請求をすることもできないというべきであり、賃貸人の礼金の引渡請求は、各契約を通じ、前提を欠いて、理由がない。礼金は本来賃借人に返還すべきものであり、礼金名目の金員の支払について、賃借人との関係で媒介業者に助力した賃貸人がこれを取得すべき理由はない。
(4) 媒介業者の預り金等の未返還債務について
媒介業者は、賃貸人に対し、本件契約2の解約・本件契約3の締結に際し、64万円を現金で交付した旨主張する。しかし、これを裏付ける領収証等の書証はない。そして、媒介業者は、賃貸人に64万円を手渡したのは、平成21年2月6日頃に賃貸人の自宅においてであると供述していたところ、賃貸人は、平成20年12月24日から平成21年2月17日まで中華人民共和国に渡航しており、媒介業者の上記供述は、採用できない。そうすると、上記64万円の交付については、その事実を認定することは困難である。
賃貸人の反訴請求は64万円の支払を求める限度で理由があり、その余の請求を認める的確な証拠はない。
3 まとめ
本件は、媒介業者と賃貸人間で合意された礼金取得合意、及びその合意を前提として定められた賃貸人と賃借人間の礼金支払合意について、宅建業法の媒介報酬制限規定を潜脱するものとして無効とされた事例である。
宅建業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額は、宅建業法46条に基づき、国土交通大臣の告示(昭和45年10月23日建設省告示第1552号)によって、その報酬額の最高限度が定められている。また、当該告示の第7第1項には「宅建業者は…第2から第6までの規定によるほか、報酬を受けることはできない。ただし依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、この限りではない」と規定しており、東京高判 昭57・9・28 判例タイムズ485-108においては、当該告示が特に容認する広告の料金とは、大手新聞の広告料等、報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告費用としており、さらに、特に依頼者から広告を行うことの依頼があり、その費用の負担につき事前に依頼者の承諾があった場合に限り、その実費を受領できるとしている。
宅建業法の報酬規程等に違反した場合、行政処分の対象にもなることから、宅建業者には慎重な対応が求められ、本件事例のような合意は慎むべきといえよう。
(担当:畑山)
※本事例は一般財団法人 不動産適正取引推進機構 機関誌RETIOに掲載された判例からの抜粋です。
◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆
○賃借人より礼金として受領する金員を媒介業者が広告料名目で収受する旨の媒介業者と賃貸人間の合意は宅建業法に違反し無効とされた事例
媒介業者と賃貸人間で、媒介業者がテナントから受領した預り金等の授受についてトラブルが発生し、媒介業者は営業妨害の不法行為に基づく損害賠償請求(本訴)を、賃貸人は預り金等の返還を求めた(反訴)事案において、テナントより礼金として受領する金員を媒介業者が広告料名目で収受する旨の媒介業者と賃貸人間の合意は、宅建業法に違反し無効であるとし、裁判所が認定した媒介業者から建物所有者への未交付分に限定して賃貸人の請求は認容されたが、双方のその余の請求は棄却された事例(東京地裁 平成25年6月26日判決 一部認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成18年、賃貸人(被告)は、媒介業者(原告)に、所有建物(以下「本件建物」という。)の賃貸借契約の媒介を依頼した。
媒介業者は本件建物において、同年11月から平成22年2月にかけて本件契約1ないし4の、4件の賃貸借契約の媒介を行った。
平成22年3月、媒介業者は、金銭の精算等について疑問を持った賃貸人が媒介業者の事務所に押しかけ暴言を吐き、恫喝したとして、賃貸人に対し営業妨害等の不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めて、本訴を提訴した。これに対し、賃貸人は媒介業者に対し、預り金等返還請求として240万円余(うち礼金111万円余)の支払を求め、反訴として提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、賃貸人の請求を一部認容した。
(1) 賃貸人の営業妨害について
媒介業者と賃貸人とのやり取りで、賃貸人らが、やや激しい言葉で媒介業者に迫ったことはあるとしても、社会通念上許される範囲を超えて賃貸人らが暴言を吐き、媒介業者を恫喝したとまで認めることはできない。
(2) 本件礼金取得合意の存否について
媒介業者は、本件契約1に先立ち、賃貸人に対し、近時の賃貸物件の供給状況では、貸主が広告料名目で元付業者に対し金員を支払うのが一般的であり、本件建物の賃貸を仲介するに際しても、賃貸人に広告料を支払ってほしい旨求めたところ、賃貸人が、自分が出えんをして広告料を負担するということに難色を示したので、媒介業者において、テナントから礼金名目で金銭(通常は賃料の2か月分)を徴収し、これを広告料に充てることを提案し、賃貸人の了承を得た。
賃貸人は、これを否定する旨の主張をするが、4件の各契約書には、礼金の規定が明確に表示されており、投資物件としての運用を目的とした賃貸人が礼金が未払であることについて問題としなかったとは考え難いのであり、賃貸人の主張等は、採用することができない。
(3) 本件礼金取得合意の効力等について
礼金取得合意は、賃借人から礼金との名目の下に賃料の1か月又は2か月分相当額の金員を出えんさせることを前提として、これを媒介業者において広告料の名目により取得することを認めるものであるが、このような合意は、宅建業法の定めに違反し、無効であるというよりほかはない。
本件以外でも、広告料名目の金銭の収受が行われる実態が認められるとしても、このような実態に基づく運用が強行規定である宅建業法の規定を空文化する効力を持つような慣習法として確立しているとは言い難く、上記媒介業者の主張によっても、前記判断を左右するに足りない。
賃貸人は、礼金名目の金員について、賃貸人が取得すべき金員を媒介業者が預かり又は留保したとして、その引渡しを求めている。しかし、この礼金は、強行規定を潜脱する目的で、媒介業者が広告料名目の金員を取得するために定めたものであるから、各賃借人と賃貸人間の礼金支払合意も、礼金取得合意と同様に、宅建業法の規定に反し、無効である。
賃貸人は、各賃借人から支払われた礼金名目の金員を取得する正当な権限を有しないから、これを自らに引き渡すべき請求をすることもできないというべきであり、賃貸人の礼金の引渡請求は、各契約を通じ、前提を欠いて、理由がない。礼金は本来賃借人に返還すべきものであり、礼金名目の金員の支払について、賃借人との関係で媒介業者に助力した賃貸人がこれを取得すべき理由はない。
(4) 媒介業者の預り金等の未返還債務について
媒介業者は、賃貸人に対し、本件契約2の解約・本件契約3の締結に際し、64万円を現金で交付した旨主張する。しかし、これを裏付ける領収証等の書証はない。そして、媒介業者は、賃貸人に64万円を手渡したのは、平成21年2月6日頃に賃貸人の自宅においてであると供述していたところ、賃貸人は、平成20年12月24日から平成21年2月17日まで中華人民共和国に渡航しており、媒介業者の上記供述は、採用できない。そうすると、上記64万円の交付については、その事実を認定することは困難である。
賃貸人の反訴請求は64万円の支払を求める限度で理由があり、その余の請求を認める的確な証拠はない。
3 まとめ
本件は、媒介業者と賃貸人間で合意された礼金取得合意、及びその合意を前提として定められた賃貸人と賃借人間の礼金支払合意について、宅建業法の媒介報酬制限規定を潜脱するものとして無効とされた事例である。
宅建業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額は、宅建業法46条に基づき、国土交通大臣の告示(昭和45年10月23日建設省告示第1552号)によって、その報酬額の最高限度が定められている。また、当該告示の第7第1項には「宅建業者は…第2から第6までの規定によるほか、報酬を受けることはできない。ただし依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、この限りではない」と規定しており、東京高判 昭57・9・28 判例タイムズ485-108においては、当該告示が特に容認する広告の料金とは、大手新聞の広告料等、報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告費用としており、さらに、特に依頼者から広告を行うことの依頼があり、その費用の負担につき事前に依頼者の承諾があった場合に限り、その実費を受領できるとしている。
宅建業法の報酬規程等に違反した場合、行政処分の対象にもなることから、宅建業者には慎重な対応が求められ、本件事例のような合意は慎むべきといえよう。
(担当:畑山)
※本事例は一般財団法人 不動産適正取引推進機構 機関誌RETIOに掲載された判例からの抜粋です。
Posted by TFC会 at 10:02│Comments(0)
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